大阪高等裁判所 昭和62年(行コ)27号 判決 1988年4月28日
控訴人
岡崎染工株式会社破産管財人
田辺照雄
右訴訟代理人弁護士
田中宏
被控訴人
国
右代表者法務大臣
林田悠紀夫
右指定代理人
高須要子
同
土谷睦美
同
上山邦三
同
高岡泰好
被控訴人
京都府
右代表者知事
荒巻禎一
右訴訟代理人弁護士
前堀政幸
右指定代理人
東昌司
同
長谷川登志雄
同
神山俊昭
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人と被控訴人国との間において、被控訴人国の破産者岡崎染工株式会社に対する昭和五四年九月一日から同五五年八月三一日までの事業年度の予納法人税(再更正されたもの)の債権のうち金一一〇五万一二〇〇円及びこれに対する法定の延滞金を超える部分が財団債権でないことを確認する。
2 控訴人の被控訴人国に対するその余の請求を棄却する。
3 控訴人と被控訴人京都府との間において、被控訴人京都府の破産者岡崎染工株式会社に対する昭和五四年九月一日から同五五年八月三一日までの事業年度の法人府民税(再更正されたもの)の債権のうち金六九万一一六〇円及びこれに対する法定の延滞金を超える部分が財団債権でないことを確認する。
二 訴訟の総費用(但し、上告審においてその負担を命じられた部分を除く。)は、これを一〇分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 控訴人と被控訴人国との間において、被控訴人国の破産者岡崎染工株式会社(以下「破産会社」という。)に対する昭和五四年九月一日から同五五年八月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の予納法人税(再更正されたもの)の債権のうち金一〇五五万七五二二円及びこれに対する法定の延滞金を超える部分が財団債権でないことを確認する。
3 主文第一項3と同旨。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。(なお、控訴人は、差戻後の当審において、右第2、3項のとおり、請求を減縮した。)
二 被控訴人ら
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
一 控訴人の請求の原因
1 破産会社は、昭和四九年五月一一日午前一〇時京都地方裁判所において破産宣告を受け、控訴人がその破産管財人に選任された。
2 ところで、本件上告審判決によれば、本件のように破産者が内国普通法人である場合、その予納法人税のうちの一般部分の債権は、破産法上の財団債権に当たらないが、租税特別措置法(以下「措置法」と略称する。)六三条一項の規定による土地重課部分の債権は、財団債権に当たるとし、更に、後者については、当該土地の中に別除権の目的となつているものが含まれ、かつ、その譲渡利益金額の中に別除権者に対する優先弁済部分が存するときは、右土地の譲渡による収益の額から譲渡に際し支出された譲渡経費(換価費用)の額及び別除権者に対する優先弁済額を控除し、その残額が譲渡による譲渡利益金額以上であるときは、その譲渡利益金額は実質的に全部破産財団に帰属するとみることができるが、右残額が右譲渡利益金額に満たないときは、譲渡利益金額の中のその満たない金額に相当する部分は別除権者に対する優先弁済部分に充てられ、実質的にはその余の部分(以下これを「実質的剰余部分」という。)のみが破産財団に帰属するとみるべきである、とする。
また、その府民税については、均等割部分及び法人税割部分中、右の譲渡利益金額中実質的に破産財団に属する部分に対応する部分のみが財団債権に当たり、その余の部分は、財団債権には当たらない、とする。
そして、右判旨に従い、本件各租税債権のうち、財団債権にあたる部分の金額を算出すると、次のとおりとなる。
(一) 破産会社においては、本件事業年度中、京都市北区西賀茂上庄田町二番外一〇筆の土地(以下「本件土地」という。)の売却により、売買代金七億三五〇〇万円の収益があり、その譲渡経費(換価費用)は、仲介手数料一〇〇〇万円、契約書貼用印紙代一〇万円の計一〇一〇万円であり、右土地の別除権者への優先弁済額は合計五億四〇六六万六一九四円であつた。従つて、右収益から譲渡経費及び別除権者への優先弁済額を差引いた実質的剰余部分は、一億八四二三万三八〇六円であり、これは土地重課部分算定の基礎となる本件土地の譲渡利益金額五五二五万六〇〇〇円以上であるから、本件予納法人税については、右譲渡利益金額に対応する土地重課部分一一〇五万一二〇〇円が全額財団債権となる。
なお、控訴人は、昭和五五年一〇月三一日の本件予納法人税の申告に際し、本件土地の譲渡利益金額を四五九八万五〇〇〇円、これに対する税額(土地重課部分)を九一九万七〇〇〇円としたのに対し、中京税務署長は、同五六年二月二七付で、右譲渡利益金額を一億六三六一万七〇〇〇円、これに対する税額を三二七二万三四〇〇円とする旨の更正決定処分をしたが、最終的には、昭和五九年一二月一四日、右署長により右譲渡利益金額を五五二五万六〇〇〇円、それに対する税額(土地重課部分)を一一〇五万一二〇〇円とする旨の再度の更正決定処分がなされ、右処分は確定した。
(二) 右のとおり、本件破産手続において、財団債権にあたるものは、法人税については一一〇五万一二〇〇円であるが、これに対し、本件事業年度中の銀行預金利息から源泉徴収された四九万三六七八円がその一部に充当されるので、財団債権として残るのは、その差額一〇五五万七五二二円となる。
3 また、府民税については、均等割金六〇〇〇円と、法人税割のうち、右一一〇五万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)の6.2パーセントにあたる六八万五一六〇円の合計六九万一一六〇円が財団債権にあたる。
4 よつて、控訴人は、被控訴人国に対し、破産会社に対する本件事業年度の予納法人税債権のうち、一〇五五万七五二二円及びこれに対する法定の延滞金を超える部分、被控訴人京都府に対し、府民税債権のうち六九万一一六〇円及びこれに対する法定の延滞金を超える部分が、いずれも破産会社の財団債権でないことの確認を求める。
二 被控訴人らの請求の原因に対する認否
(被控訴人国)
1 請求原因1の事実は認める。
2(一) 同2(一)の事実は認める。
但し、本件土地の譲渡による経費(換価費用)については、その仲介手数料は一〇〇〇万円であつたが、契約書貼用印紙代は一八万七五〇〇円の計一〇一八万七五〇〇円であり、また、別除権者に対する優先弁済額は、五億一二六六万六一九四円であつた。従つて、本件土地の譲渡代金七億三五〇〇万円から右経費及び優先弁済額を差し引いた右土地の譲渡による実質的剰余部分の額は、二億一二一四万六三〇六円となり、いずれにしても、右金額は、本件土地の譲渡による利益金額五五二五万六〇〇〇円以上であるから、結論的には、本件予納法人税のうちの土地重課部分一一〇五万一二〇〇円は、その全額が本件の財団債権となるものであることは、控訴人の主張のとおりである。
(二) 同(二)の事実中、破産会社の本件事業年度中において、破産会社の受け取つた預貯金の利子の額は二四六万八四〇〇円であり、これに対して課せられ、源泉徴収された所得税額が四九万三六七八円であつたことは認めるが、これが、本件土地の譲渡に伴なう土地重課部分に充当されるべきであるとの主張は争う。
即ち、本件上告審判決は、予納法人税の財団債権性の当否について判断するにあたり、本来の清算所得に対する予納法人税の一般部分と予納法人税の土地重課部分に分離して判断しているが、これは同じ予納法人税であつても、両者の課税対象とする所得には性質の相違が存するとされたためである。つまり、予納法人税の一般部分は、破産手続終了後の残余財産の一部である清算所得を課税の対象とするものであるが、予納法人税の土地重課部分は、土地等の譲渡にかかる譲渡利益金額の合計額を他の所得から分離し、これを課税の対象としていることから、清算所得に対する法人税の予納として扱われるものであつても、課税の対象となる所得は清算所得とは異なる性質のものであると判断しているものと解される。
そして、所得税額の控除について、法人税法六八条一項は、「内国法人が各事業年度において所得税……第百七十四条……に規定する利子等……の支払を受ける場合には、これらにつき同法の規定により課される所得税の額は、……当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する。」と規定しており、右上告審判決からすれば、「当該事業年度の所得に対する法人税」を、課税の対象となる所得の相違により、予納法人税の一般部分と土地重課部分とに分離して同条を適用するというのが論理的である。
また、受取利息が、予納法人税の土地重課部分の課税対象ではなく、一般部分の課税対象となる所得である以上、これに対して課せられ、源泉徴収された所得税の額は、まず右の一般部分から控除すべき性質のものであり、一般部分の法人税額が存しているにも拘らず土地重課部分から控除することは、予納法人税の一般部分が任意納付等によつて収納済みとなつているような場合に、その収納金額を当然に還付すべきことを前提としてはじめて許される処理であつて、現行法上認められる処理とはいい難い(法律の規定によらない還付は許されず、当該租税債権が財団債権に当らないとの理由のみで還付することが許されないのは当然である。)。
従つて、源泉徴収された前記四九万三六七八円は、本件法人税のうち本来の清算所得に対する税額六四四五万五六〇〇円から控除されるものであり、土地重課部分で財団債権に該当する一一〇五万一二〇〇円には何ら影響するものではない。
3 同4の主張は争う。
(被控訴人京都府)
請求原因1及び3(控訴人主張の均等割額六〇〇〇円と法人税割額六八万五一六〇円の合計六九万一一六〇円が本件事業年度における破産会社の府民税本税の額に該当するものであること)の事実は、いずれもこれを認めるが、同4の主張は争う。
第二 証拠<省略>
理由
一被控訴人国に対する請求について
1 請求原因1の事実及び2(一)の事実のうち、本件土地の譲渡による利益金額が五五二五万六〇〇〇円であること、実質的剰余部分(控訴人は一億八四二三万三八〇六円、被控訴人国は二億一二一四万六三〇六円と主張するが。)が右利益金額を大きく上廻ること及び本件予納法人税(再更正されたもの)のうちの土地の重課部分に対する税額が一一〇五万一二〇〇円であり、その全額が、本件財団債権に属すること、以上の事実については、いずれも当事者間に争いがなく、また、右重課部分に対する税額の法定の延滞金は、右税額の付随的なものであるから、右税額と同様に、本件の財団債権に属するものと解するのが相当である。
2 そこで、同2の主張について検討する。
破産会社が本件事業年度において、銀行預金利息から、四九万三六七八円の源泉徴収を受けた事実は、当事者間に争いがない。
ところで、本件上告審判決によれば、措置法六三条一項の土地重課税は、法人が土地等の譲渡等をした場合に、当該土地等の譲渡に係る譲渡利益金額の合計額を基礎として、本来の各事業年度の所得に対する法人税の額又は清算所得に対する法人税の額とは別途に計算され、本来の法人税額に上乗せされる租税であり、本来の法人税額が存しないときであつても納付すべきものであつて、それは、本来の法人税額を計算するに当つてその他の損益と通算し所得に含められる右譲渡利益金額の合計額を他の所得から分離し、これを課税対象とするものであり、本件の如き清算中の内国普通法人に課せられる予納法人税についても異なるところはない、というのである。
そして、土地重課税は本来の法人税の一般部分に加算され、これと同一の税目とされてはいるが、その制度の趣旨は、法人の買い受けた土地についての短期間の保有後の売却につき、課税上の特別措置として、その間の値上り益に対して一律に課税することにより土地投機取引を抑制せしめるとの政策的目的に出たものであるところから本来の法人税とは課税客体を異にし、その課税率も、一律に土地の譲渡等に係る利益金額の一〇〇分の二〇として別個に計算すべきものとされているのである。
他方、法人税法一〇二条一項は、内国普通法人等の清算中の所得に関し、その各事業年度の所得を解散していない内国普通法人等の各事業年度の所得とみなして計算した場合における当該事業年度の課税標準である所得の金額(一号)及び法人税法第二編第一章第二節の規定を適用した場合に計算される法人税の額(二、三号)とともに、六八条(内国法人が各事業年度において所得税法に規定する利子等の支払を受ける場合には、これらにつき同法の規定により課される所得税の額は、政令で定めるところにより、当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨の規定)及び六九条の規定による控除をされるべき金額で、二号に掲げる法人税の額の計算上控除しきれなかつたものがある場合には、その控除しきれなかつた金額に関し、税務署長に対し、これらの事項を記載した申告書を提出してその控除の申告をすべきもの(五号)と規定している。
ところで、受取利息は、予納法人税における重課部分の課税対象となる利益ではなく、それ以外の一般部分の所得に属するものであることは、以上に説示したところから明らかであるから、これに対する所得税は、法人税法一〇二条一項により、同法六八条の規定によつて控除するのが最も論理的であり、また、破産債権者において共益的な支出として共同負担すべき破産財団管理上の経費ということもできないから、この意味においても、破産法四七条二号但書にいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」には当たらないものと解せざるを得ないのである。
従つて、本件預金利息から源泉徴収された税額は、本件予納法人税の一般部分の税額から控除すべきであつて、その重課部分に対する税額から当然に差し引かれるべきであるとする控訴人の主張は、失当たるを免れない。
二被控訴人京都府に対する請求について
同被控訴人の破産会社に対する本件事業年度の法人府民税(再更正されたもの)の債権のうち、均等割金六〇〇〇円及び法人税割のうちの六八万五一〇〇円の合計六九万一一六〇円が、本件の財団債権に属する事実は、当事者間に争いがなく、また、右法人府民税額に対する地方税法六四条に定める延滞金は、その税額の付随的なものであるから、右税額と同様に、本件財団債権に属するものとするのが相当である。従つてこれを超える部分は右財団債権には当たらないものというべきである。
三結論
以上の次第であるので、控訴人の被控訴人国に対する請求については、右当事者間において、被控訴人国の破産会社に対する本件事業年度の予納法人税(再更正されたもの)の債権のうち、金一一〇五万一二〇〇円及びこれに対する国税通則法六〇条所定の延滞金を超える部分が財団債権に属しないことの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却し、控訴人の被控訴人京都府に対する請求については、すべて理由があるのでこれを認容すべきものである。よつて、これと結論を異にする原判決は、右限度で不当であるから、これをそのように変更し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官長久保武 裁判官諸富吉嗣 裁判官梅津和宏)